45年くらい前のこと、小学生の頃。 隣の家にヒデという男がいた。 学年は一つ下である。 彼の父親は元あっち系の人で、両手とも小指と薬指がなかった。 近所にそういった人たちがたくさんいたので、手の指が10本そろっていない人を見ても、特別な感情がわかなかった。 ヒデと、あるとき隣町まで出かけた。 バスで20分くらいかかる。 私は手ぶらであったが、ヒデは紺の布袋を持っていた。 隣町には小さなデパートがあった。 私のいる町では手に入らないものが売っている。 デパートでは、陽気な音楽が流れ、エスカレーターで各階を移動できた。 どのフロアも明るく、見たことのない商品が照明に照らされている。 文房具売り場に行くと、きらめく筆記用具に心が躍った。 おなかがすいたので、外へ出て、近所の肉屋さんへ行く。 そこで売っている軟骨から揚げが大好きだった。 200円を払うと、油紙袋に入れ、唐揚げを渡してくれた。 それをかじっているとヒデが
「なんかいいもんあった」と尋ねてきた。 文房具売り場にあった、シルバーの水性ボールペンがよかったので、そういうと 「わかった」 といった。 5,000円とか3,000円もしたので、とても買えない… でも、いつか買おうと思った。 あの重厚な感じがかっこよかった。
帰り道バスの中で、ヒデが袋から小さな箱を取り出し、「はい」といって渡してきた。 あのシルバーのボールペンだった。 自分はウォークマン用のイヤホンだと言った。 理解が追い付かず、お前そんなお金持ってたのかときくと、「けっぱった(盗んだ)よ」と涼しい顔でいう。 「バス代使って行ったんやき、こんくらいせな。もったいないやろ」 バスの中でヒデと大喧嘩になり、バスから降ろされ、ヒデとは別々に帰った。 私が家に帰ると、ヒデはまだ帰っていないようだった。 次の日ヒデにその後のことを聞くと、「全部捨てたっちゃ」と泣きながら言った。 ヒデが大きな声で泣くので、家からヒデの親父さんが出てきた。 「なん泣かしようか!!!」と怒鳴られ、その場から逃げた… 今でも苦い思い出である…

ヒデの中にあった考え、お金を使ってバスで隣町に行ったのだから、何かしら盗んで、得した気分で帰らないと損だ、という考え方。 こんなこと考えるはずがないとか、おかしいというのは簡単であるが、本当にこういう考え方をする人がいたのである。 どんな言葉に囲まれて育ったらそうなるのか、どんな振る舞いに囲まれて育ったらそうなるのか。 環境の大切さを改めて思い知った。 もっとヒデと話したかった… 未練ですね…



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